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「AIが来たから、営業は楽になる」は本当でしょうか

2025/12/1

「AIが来たから、営業はもう楽になる」。そう感じている方がいらっしゃったら、一度立ち止まって考えていただきたいことがあります。AIの時代だからこそ、地道に量をこなす営業の価値は、むしろ上がっているのではないか、という視点です。


もちろんAIは強力な武器です。文章を書く、情報を調べる、リストを整理する。これまで人が何時間もかけていた作業が、AIを使えば数十分で終わることも珍しくありません。ただ、AIを「楽をするための道具」として使うのか、「これまでより多くの行動を積み重ねるための道具」として使うのかで、半年後、一年後の結果はまったく違うものになります。今日は、営業における「量」という土台と、そこにAIをどう掛け合わせていくかについて、私自身の経験や、いくつかの事例・データを交えながらお話ししたいと思います。

量をこなした先にしか見えないもの

私は以前、証券会社でリテール営業に従事しており、社内トップの成績を何度か経験しました。振り返ってみても、特別な才能があったとは思えません。むしろ、やっていたことは驚くほどシンプルでした。人より多く電話をかけ、人より多く手紙を書き、人より多く足を運ぶ。飛び込み営業を1日に100件、200件とこなし、朝は早い時間から情報収集に時間を使い、夜遅くに帰宅してからも顧客への手紙を書く。そうした日々の積み重ねでした。

当時を振り返って思うのは、結果を分けたのは頭の良さでも話術の巧みさでもなく、純粋な「量」だったということです。営業には近道がないという言い方もできますが、もう少し正確に言うなら、「他の人が止まっている時間に、自分が動いたかどうか」がすべてだったように思います。これは特別な精神論というより、実はシンプルな確率の話でもあります。行動の総量が増えれば、成果につながる確率も上がる。当たり前のことのようですが、実際にそれをやり切れる人は、多くはありません。

なぜ多くの人がやり切れないのか。理由の一つは、量をこなす過程で必ず訪れる「反応のない時間」に耐えられないからだと思います。10件電話して1件も繋がらない。50件手紙を送っても返事がない。ここで「自分には向いていない」と判断してしまうと、そこで行動が止まります。しかし、実際には母数がまだ足りていないだけ、というケースが大半です。この「母数の感覚」を持てるかどうかが、続けられる人と途中でやめてしまう人の分かれ道になります。

「99%は汗」——発明王が語り続けたこと

トーマス・エジソンは、天才の定義についてこう語ったとされています。天才とは、わずかなひらめきと、大部分の地道な努力によって成り立つものだ、という趣旨の言葉です。彼はのちの書簡でも、この考え方は変わらないと述べています。数々の発明で世界を変えた人物ですら、成果の大部分を「努力」に置いていたという事実は、示唆に富んでいます。

発明という、一見すると「ひらめき」がすべてを決めるように思える領域でさえ、実際には途方もない数の試行錯誤が土台になっていたわけです。うまくいかなかった実験の数を数えなければ、成功にはたどり着けない。これは営業にも、そのまま当てはまる構造だと思います。契約に至った1件の裏側には、契約に至らなかった数百件、数千件のアプローチが存在している。その「見えない母数」に目を向けられるかどうかが重要です。

現代のビジネスパーソンが、汗をかかずに結果だけを求めるのは、少し虫が良すぎるのかもしれません。もちろん、闇雲に動けばよいという話ではなく、あとで触れるように「量をこなすからこそ見えてくるデータ」があるという点が重要です。努力と工夫は対立するものではなく、努力の量があるからこそ、工夫すべきポイントが見えてくるという順序で捉えるのが正確だと思います。

「効率化」「タイパ」という言葉との向き合い方

「効率化」「時短」「タイムパフォーマンス」。どれも魅力的な言葉です。ビジネス書やSNSでも、こうした言葉に触れない日はないほどです。ただ、量をこなしていない段階で効率だけを語ろうとすると、本質からずれてしまうことがあります。新規開拓がうまくいかないときに、コストパフォーマンスの良い「裏ワザ」を探し続けてしまう。交流会で名刺を配って満足してしまう。セミナーに参加して、学んだ気になってしまう。それ自体は悪いことではありませんが、それだけで売上が動くほど、営業という仕事は甘くないというのが実感です。

効率化という考え方自体は、決して否定されるべきものではありません。問題は順序です。行動量というベースがまだ十分でない段階で効率化だけを追い求めると、「何も試していないのに、うまくいく方法だけを探す」という状態に陥りがちです。効率化は、ある程度の量をこなした後、初めて意味のある改善として機能します。順序を間違えると、効率化のための情報収集そのものが、行動を先延ばしにする言い訳になってしまうことがあります。

京セラの創業者である稲盛和夫氏は、経営哲学の一つとして「誰にも負けない努力をする」という言葉を掲げていたことで知られています。ポイントは「ただの努力」ではなく「誰にも負けない努力」だという点です。競合よりも多く動かなければ、競争において優位に立つことは難しい。経営でも営業でも、最終的にはこうした基本的な姿勢の差が結果の差になって表れることが多いように感じます。

数字が語る、「量が先、質は後」という順序

ここまでは精神論的な話に聞こえたかもしれませんが、これは数字の裏付けがある話でもあります。BtoBの新規開拓においては、KPIを「行動量」から逆算して設計するのが定石です。最終的な受注に必要な商談数、その商談を生み出すために必要なアプローチ数、そのアプローチを生み出すために必要なリストの母数。この階層構造を数えずに、いきなり「質を上げよう」と言い出す場合、実は量から目をそらしているだけということが少なくありません。

「返信が来ない」と感じたとき、まず見るべきは「そもそも何件送ったか」です。ターゲットの精度が高い場合でも、返信率は数百件に1通、契約に至るのは数千件に1件、という水準になることも珍しくありません。500件のアプローチをして反応がなかったとしても、それは失敗ではなく、まだ通過点にすぎない可能性が高いということです。むしろ、500件という母数があって初めて「このやり方では反応が薄い」という判断材料が手に入ります。

さらに重要なのは、量をこなさなければ「改善のためのデータ」そのものが手に入らないという点です。件名を変えたら開封率がどう変わるか、文面の冒頭を変えたら返信率がどう変わるか。送る時間帯を変えたら反応率がどう動くか。こうした検証は、母数がある程度なければ意味のある差として現れません。10件送っただけでは、たまたま良かったのか、たまたま悪かったのか判断がつかないからです。質の改善は、量というデータの土台の上にしか成り立たないと言えます。

言い換えれば、「量をこなす」ことは、根性論であると同時に、もっとも地味で確実な「データ収集活動」でもあります。仮説を立て、量をこなして検証し、また仮説を立てる。このサイクルを回す速度そのものが、営業組織の強さを決めていると言っても過言ではないでしょう。

行動量を「科学」にした企業の例

「量なんて古い考え方だ」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、行動量の管理を徹底することで高い収益性を実現している企業の例は、実際に存在します。

たとえば、精密機器メーカーのキーエンスは、営業利益率が非常に高い水準にあることで知られる企業です。その背景にあるのは、特別な魔法ではなく、徹底した行動量の可視化と管理だと言われています。日々の営業活動を細かく記録し、翌日の訪問目的を明確にし、上司とともに改善を繰り返していく。粗利率の低い商品は基本的に扱わない、といった規律も併せ持っているとされます。

ここで重要なのは、「行動量を増やせ」という号令だけで終わらせず、それを「仕組み」として毎日回し続けている点です。感覚や気合に頼るのではなく、日々の行動を数値として記録し、翌日の計画に反映させる。このサイクルが、属人的な頑張りではなく、組織としての強さに変わっていく理由だと考えられます。

つまり、「圧倒的な行動量」を、感覚ではなく「仕組み」として回している企業が、業界の中でも高い利益率を実現している、という事実があるわけです。これは、量を軽視する立場に対する、一つの明確な反証と言えるかもしれません。量とは、根性で乗り切るものではなく、仕組み化して初めて再現性を持つものだと言い換えることもできます。

AIは「サボるための道具」ではなく「多く動くための道具」

ここでようやく、AIの話に入ります。誤解を避けるためにお伝えしておくと、量を大切にすることと、AIを積極的に使うことは、まったく矛盾しません。むしろ非常に相性が良い組み合わせです。

AIが得意なのは、リストの作成や整理、企業情報の下調べ、文面の下書き、資料の骨子づくりといった「準備」の部分です。たとえば、対象となる企業の一覧を作る作業一つとっても、公開情報を一件ずつ確認し、重複や対象外の企業を除外し、問い合わせ先を特定するといった工程には、これまで多くの時間がかかっていました。こうした調査・整形の作業をAIに任せることで、これまで人の手で1時間に20件しか処理できなかった作業が、50件、60件と処理できるようになる、といったことが実際に起こります。

ここで大事なのは、その「浮いた時間」を何に使うかです。浮いた時間を休息に使うこと自体は悪いことではありませんが、営業の成果という観点で見れば、浮いた時間を「さらに量を積むこと」に使えるかどうかが分かれ道になります。同じ1日の中で、これまでの何倍もの行動量を確保できるとしたら、それは大きな競争優位になります。

もう一つ、AIの効果的な使い方として見落とされがちなのが「振り返りの高速化」です。送った文面のどこに反応があったか、どのパターンの反応率が高かったかを整理し直す作業も、AIを使えば短時間で行えます。量をこなすほどデータが溜まりますが、そのデータを人力で分析しようとすると膨大な時間がかかります。AIによって分析のコストが下がることで、「量をこなす → データを振り返る → 次の量に反映する」というサイクルの回転速度そのものが上がっていきます。

目指すべきは「AIを持った、これまでと同じ人」ではなく、「AIを持って行動量が何倍にもなった人」だと言えるでしょう。道具が強くなっただけで、使う本人の行動量が変わらないのであれば、その道具の価値は半分も引き出せていないことになります。

「アナログ×AI」という組み合わせの強さ

フォーム営業やDM営業では、成果の多くが「誰に送るか」というリストの精度によって決まります。この部分は、AIを活用することで精度とスピードを一気に高めることができます。企業の属性を調べたり、重複や関係のない対象を除外したりといった作業は、AIとの相性が非常に良い領域です。

一方で、最後に相手の心を動かすのは、意外にもアナログな部分であることが多いように感じます。相手の会社のホームページを丁寧に読み込んだ上で書かれた、その会社だけに向けた一通の文面。テンプレートをそのまま送るのではなく、一手間かけたコミュニケーション。こうした「熱量」の部分を、AIによって何倍にも増幅させていく、という考え方です。

たとえば、リストの作成や一次スクリーニングはAIに任せ、実際に送る文面の最終チェックや、返信が来た後の個別対応は人が丁寧に行う、という役割分担も一つの形です。すべてをAIに任せてしまうと、どうしても文面が画一的になり、相手にテンプレートだと見抜かれてしまうことがあります。逆に、すべてを人力で行おうとすると、そもそも量が確保できません。どこを機械に任せ、どこに人の手をかけるか。この線引きを設計することが、これからの営業マネジメントにおいて重要なテーマになっていくと考えています。

デジタルに全振りするのでも、アナログにこだわり続けるのでもなく、両方を同時にフルスロットルで回していくことが、これからの営業においては一つの有効な戦い方になるのではないでしょうか。

「量」と「質」は対立概念ではない

ここまで「量が先、質は後」という話をしてきましたが、誤解のないように補足しておきたいことがあります。それは、量さえこなせば質はどうでもよい、という意味ではないということです。明らかに的外れなリストへ、明らかに失礼な文面を大量に送りつけるような行為は、量以前の問題として避けるべきです。相手にとって迷惑になる行為を積み重ねても、成果にはつながりませんし、会社や個人の信用を損なうリスクの方が大きくなります。

ここで言う「量」とは、あくまで「最低限の質を満たした行動」を、十分な母数まで積み重ねることを指しています。最低限の質とは、たとえば、送る相手が本当にその商品やサービスを必要としている可能性がある業種・規模であるか、文面が失礼のない内容になっているか、といった基本的な部分です。この最低ラインをクリアした上で、あとは母数を積み上げながら、返信率や成約率といったデータをもとに、少しずつ精度を上げていく。これが「量から質が生まれる」プロセスの実際の姿です。

質だけを追い求めて一件一件に時間をかけすぎると、母数が確保できず、そもそも改善のためのデータが集まりません。逆に、最低限の質すら満たさない状態で量だけを追い求めると、ブランドの毀損につながりかねません。両者はどちらか一方を選ぶものではなく、「最低限の質を保った上で、量を最大化する」というのが、もっとも現実的なバランスだと考えています。

行動量を仕組み化するための具体的な視点

行動量を増やそうと決意しても、日々の忙しさの中で三日坊主になってしまうことは珍しくありません。ここでは、行動量を継続的に確保するための、いくつかの実践的な視点をご紹介します。

一つ目は、行動の「数」を必ず記録することです。何件アプローチしたか、何件返信があったか、何件商談につながったか。この数字を毎日、あるいは毎週記録するだけで、自分の活動量を客観的に把握できるようになります。感覚だけで「今週は頑張った」と判断してしまうと、実際の数字とのズレに気づけません。

二つ目は、行動量の目標を「結果」ではなく「プロセス」で設定することです。「今月中に契約を10件取る」という目標は、外部要因に左右される部分が大きく、コントロールしづらい目標です。一方で、「今週は300件アプローチする」という目標は、自分自身の行動だけでコントロールできます。プロセス目標を確実にクリアし続けることで、結果としての契約数は後からついてくる、という考え方です。

三つ目は、AIを使って「準備」と「実行」を分離することです。リストの作成や文面の下書きといった準備作業は、まとまった時間を確保してAIと一緒に一気に片付けてしまう。そのうえで、実際に送る・電話をかけるといった実行作業に集中する時間を、別途確保する。準備と実行を同じ時間の中で行き来すると、集中力が分散し、結果的に行動量が落ちてしまうことがあります。準備をAIに任せることで空いた時間を、実行のための時間にそのまま転用する、という発想が大切です。

四つ目は、反応があった事例とそうでない事例を定期的に見比べることです。反応のあった文面と、反応のなかった文面を並べて比較するだけでも、次に活かせる気づきが見つかることがあります。この振り返り作業自体も、AIに文面のパターンを整理させることで、負担を大きく減らすことができます。振り返りの手間が減れば、そのぶん「振り返りを続けられる」可能性も高まります。

甘い世界ではないけれど、絶望の話でもない

キャリアを伸ばしたい、会社を大きくしたい、独立して仕事をしていきたい。目的はさまざまでも、道筋はそれほど変わらないように思います。正攻法で、量を、圧倒的にこなす。裏道を探している時間があるなら、その時間で行動を一つ積み重ねる。これは決して楽な話ではありません。

ただ、これは絶望の話ではなく、むしろ希望の話でもあります。特別な才能がなくても、強力なコネクションがなくても、今日からすぐに「量」で勝負を挑むことは誰にでもできるからです。学歴や経歴に関係なく、今この瞬間から始められる。これほど公平な戦い方は、他にあまりないかもしれません。

AIという新しい道具を手に入れた今こそ、量をこなせる人にとっては、これまで以上にチャンスが広がっている時代だと言えるのではないでしょうか。逆に言えば、AIがあっても行動量を増やそうとしない人と、AIを使って行動量を何倍にも増やす人の間には、これまで以上に大きな差が生まれていく可能性があります。同じ道具を持っていても、使い方次第で結果がまったく違うものになる。これは、どの時代のどんな技術革新にも共通する構造だと思います。

AIに任せる部分、人が担う部分の線引き

最後に、実務レベルでの線引きについても触れておきたいと思います。営業活動を「情報収集」「文面作成」「送信・実行」「返信対応」という4つの工程に分けて考えると、AIとの役割分担がわかりやすくなります。

「情報収集」の工程では、企業の公開情報を調べ、対象として適切かどうかを判断する材料を集める作業が中心になります。この工程は、AIが最も力を発揮しやすい領域の一つです。人力で一件ずつウェブサイトを確認していくと膨大な時間がかかりますが、AIに条件を与えて調べさせることで、大幅に時間を圧縮できます。

「文面作成」の工程では、AIに下書きを作らせたうえで、必ず人の目で最終確認をすることをお勧めします。AIが作る文面は、情報として正確でも、どこか機械的な印象になってしまうことがあります。相手の会社名や状況に触れる一文を人の手で加えるだけでも、受け取る側の印象は大きく変わります。

「送信・実行」の工程は、量をどれだけ確保できるかが直接問われる部分です。ここでAIによる自動化や効率化の恩恵を最大限に活かし、これまでの何倍もの母数を確保することが、この工程における最大のテーマになります。

「返信対応」の工程は、最終的に人が丁寧に担うべき部分です。相手からの反応があった以上、そこから先の関係構築は、機械的な対応ではなく、一人ひとりに向き合う姿勢が求められます。ここまでの3つの工程で確保した「量」があって初めて、この最後の工程に十分な時間を割けるようになる、という順序で捉えるとわかりやすいかもしれません。

おわりに

「量をこなす」というと、どうしても古い考え方のように聞こえるかもしれません。しかし、AIが普及した今だからこそ、量を出せる人と出せない人の差は、以前よりも大きくなっていくように感じています。AIによって一人あたりの行動量の上限が引き上げられた分、その上限まで実際に動けるかどうかが、これまで以上に成果を左右する要因になっていくはずです。

大切なのは、AIを「楽をするための言い訳」にしないことです。AIによって生まれた余白を、休むためではなく、次の一件を積み重ねるために使えるかどうか。この一点に、これからの営業の差がはっきりと表れてくるのではないかと思います。

こうした「AIを使った行動量の設計」や「フォーム営業・DM営業の仕組みづくり」について、もし関心をお持ちいただけましたら、コミッターズのホームページのお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。